今回は、ネパール語の子音文字の読み方を解説しています。
言語学習にはどうしても、理屈抜きで「覚えるしかない!」という分野があります。文字の読み方はまさにその代表例です。ここは、学習者がなんとか頑張って乗り越えなければなりません。とはいえ、理解は記憶を助けてくれます。文字の学習にも、理解を働かせることのできる部分が全くないわけではありません。このページでは、子音文字の読み方を解説していますが、理解して記憶するという視点が少しでも伝われば、皆さんの助けになるのではないかと思います。
(※この記事は、弊社の運営する「Webマガジン ニュース・オブ・アジア」にも掲載されています。そちらのサイトには複数のネパール語記事もあり、弊社のネパール語理解度をご確認いただけます。ぜひ一度ご覧ください。)
子音文字にはअ(ア/a)が隠れている
ネパール語の子音文字の勉強をする上で、まず知っておかなければいけないのは、一覧表に掲載されているすべての子音字には、母音の「अ」が隠れて付いているということです。
ネパール語の母音字の読み方のページで解説してありますが、子音文字に母音が付く場合、母音記号が用いられます。ところが、「अ」に対応する母音記号はありませんでした。逆に言えば、母音記号が何も付いていないとき、それは母音「अ」が付いているという意味です。
例えば、子音文字「क」には、母音記号が何も付いていませんが、読むときは必ず「カ/ka」と発音されます。「a」が隠れて付いているわけです。覚えておきましょう。
そういえば、「『何もない』ということがある」というのを表す数字が「0(zero)」ですが、これはネパール語のお隣のインドの数学者たちが発見した概念ですね。この「अ」も、それに似て「何もないことで存在を表している」のだ、と考えるのはさすがにちょっとこじつけが過ぎるでしょうか。でも、このように何かと関連付けて覚えるというのは、記憶の助けになるものですね。
子音文字一覧表
では、そのことを踏まえた上で、子音文字の一覧表を見ていきましょう。発音の方法は下で解説します。
無気清音 | 有気清音 | 無気濁音 | 有気濁音 | 鼻濁音 |
---|---|---|---|---|
क ka カ | ख kha カハ | ग ga ガ | घ gha ガハ | ङ nga ンガ |
च cha チャ | छ chha/xa チャハ | ज ja ジャ | झ jha ジャハ | ञ nya ニャ |
ट ta タ | ठ tha タハ | ड da ダ | ढ dha ダハ | ण na ンナ |
त ta タ | थ tha タハ | द da ダ | ध dha ダハ | न na ナ |
प pa パ | फ pha パハ | ब ba バ | भ bha バハ | म ma マ |
य ya ヤ | र ra ラ | ल la ラ | व wa/va ワ/ヴァ | ह ha ハ |
श sha サ/シャ | ष sa サ | स sa サ |
||
क्ष ksha クシャ/チャ | त्र tra トラ | ज्ञ ngya ンギャ |
覚えるしかありませんね。
でも、理解を働かせることのできる部分があります。上の表を正確に見ていただくために、いくつか解説が必要なポイントがありますので、お伝えしますね。
縦のグループ
まず、縦のグループに注目してください。無気音・有気音、清音・濁音が組み合わさって、無気清音、有気清音、無気濁音、有気濁音となっていることにお気づきになることと思います。そして、最後に鼻音があります。この5グループに縦に分けることができます。(下の3段だけは例外です。)
それぞれの意味を説明していきます。
無気音と有気音
ネパール語には、日本語にはない、無気音と有気音という区別があります。何度聞いてもなかなかその違いを聞き分けるのは至難の業ですが、それでもネイティブスピーカーにとっては全く違う音に聞こえます。ネパール語学習者も、聞き分けは難しくても、自分で発音する時は区別をはっきり意識しておく必要があります。
無気音
無気音というのは、「空気の無い音」です。といっても、息を全く吐かないで音を出すことはできませんので、全くのゼロという意味ではありません。それでも、無気音を発音する時に口の前に手のひらを置いてみても、空気がふれることをほとんど感じません。ティッシュペーパーのような薄い紙を口の前に広げてみても、紙はほとんど震えません。
有気音
それに対して有気音というのは、「空気の有る音」です。もちろん、すべての音は空気の振動で伝わるわけですが、それでも有気音を発音する時には、息が勢いよく前に出ます。口の前に手のひらを置いてみると、空気がぶつかってくるのをはっきりと感じます。薄い紙を広げてみれば、空気が出て行っているのは一目瞭然です。
この空気(息)を、カタカナでは「ハ」、ローマ字では「h」で表現してあります。それで、例えば「ख」の発音の仕方として、「カハ」と書いてありますが、これは「kaha」という発音ではなく、「kah」という音であることを覚えておいてください。ただし、多くの場合「kha」と翻字されることがおおいため、当解説ページでも、それに倣った表記になっています。
ポイントは、息が出る、ということです。
初めのうちは、自分では大げさすぎるように聞こえるくらい意識的に空気を出すようにした方がいいでしょう。
清音と濁音、鼻音
ネパール語には、清音と濁音、そして鼻音というものも存在します。清音と濁音は日本語にもありますが、鼻音には注意する必要がありますね。
清音
これは、日本語と同じ考え方をしておいて間違いありません。濁らない音、濁点の付かない文字で表される音です。カキクケコ、サシスセソなどがこれにあたります。
濁音
これも、日本語の濁音と同じ考え方ができます。濁る音、濁点を付けた文字で表される音です。ガギグゲゴ、ザジスゼゾなどがこれにあたりますね。
鼻音
これは、日本語にはあまり馴染みのない音です。日本語でも、一部、カ゜キ゜ク゜ケ゜コ゜といったように表記してこの音を表そうという試みもありますが、定着したものとは言えないでしょう。「カ゜」とはいうのは、空気が鼻に抜けるようにして「ga」と発音した場合の音を表し、「ガ」は空気を鼻ではなく口からまっすぐ抜けるようにして「ga」と発音した場合の音を表します。「カ゜」の音の方が角が取れて少しまろやかな(?)音になりますね。
日本語話者の中にも、この音が簡単に出せる人と、出せない人がいます。簡単に発音できる人は、少しだけ、ネパール語習得に有利だと言えるでしょう。
ネパール語の鼻音は、この「カ゜」と同じように、鼻に空気を抜く音だからです。
横のグループ
次に、横のグループを見ていきましょう。
見やすいように、もう一度一覧表を掲載します。
無気清音 | 有気清音 | 無気濁音 | 有気濁音 | 鼻濁音 |
---|---|---|---|---|
क ka カ | ख kha カハ | ग ga ガ | घ gha ガハ | ङ nga ンガ |
च cha チャ | छ chha/xa チャハ | ज ja ジャ | झ jha ジャハ | ञ nya ニャ |
ट ta タ | ठ tha タハ | ड da ダ | ढ dha ダハ | ण na ンナ |
त ta タ | थ tha タハ | द da ダ | ध dha ダハ | न na ナ |
प pa パ | फ pha パハ | ब ba バ | भ bha バハ | म ma マ |
य ya ヤ | र ra ラ | ल la ラ | व wa/va ワ/ヴァ | ह ha ハ |
श sha サ/シャ | ष sa サ | स sa サ |
||
क्ष ksha クシャ/チャ | त्र tra トラ | ज्ञ ngya ンギャ |
左から右へ5個ずつのまとまりです。(最後の2段だけは例外的に4文字と3文字ですね。)例えば、一段目は、カ・ガ・カハ・ガハ・ンガとなっています。
この横のグループは、発音する時の口や舌、唇の動きが同じグループです。そして、表の上から下に行くにつれて、発音ポイントが口の奥から前に移動してくるという特徴があります。
まずは、「क」で始まるグループから見ていきましょう。
グループ「क,ख,ग,घ,ङ」
まずは、「क」ですね。日本語の「カ(ka)」とほぼ同じ音です。何度か、「カ」と発音してみてください。そして、発音しながら、上あごの一番奥の部分、喉にほど近い所に空気が当たる仕方で発音していることに注意してみてください。よく注意してみると、舌の付け根のあたりが一度上あごの奥に密着して空気の通り道を塞ぎ、それから少しはじけるかのようなイメージで空気の通り道ができ、「カ」という音が出てくることにお気づきになるでしょう。
普段は意識することがないので難しいかも知れませんが、逆に舌の先だけを上あごにあてて、あるいは舌が全く上あごに当たらないようにして「カ」と発音できるか試してみてください。絶対無理だということにお気づきになるでしょう。「カ」という音は、上あごの奥の方で下の付け根が一度空気の通りを止めることから出てくる音だからです。
「क」もその音です。このグループに属する5つの文字すべてが、この口内の動きで発音されます。
この口内の動きで、前に考えた、無気音、有気音、清音、濁音の組み合わせと鼻音を意識すれば、正しく発音できます。
グループ「च,छ,ज,झ,ञ」
次に、「च」から始まるグループです。これを発音する時は、舌が上あごに接する位置が、「क」のグループの時と比べて前に移動します。ちょうど、前歯の付け根のあたりです。ここに、舌の先が密着します。前歯の付け根、というのは、外に出ているエナメル質の部分ではなく、歯茎の下に隠れている歯根の先っぽがあるあたり、といったようなイメージです。「チッ」と舌打ちする時に舌があたる位置です。
そして、舌の形は、舌が横幅一杯に広がって両方の奥歯の付け根から前歯の付け根まで、上あご全体に密着するイメージです。そして、空気が舌先から外へ出ていきます。
それで、その位置で発音された音に母音が組み合わさると、「チャ/cha」となります。
この口内の動きで、無気音、有気音、清音、濁音の組み合わせと鼻音を意識すれば、正しく発音できます。
グループ「ट,ठ,ड,ढ,ण」
このグループは、日本語にはない音のグループですので、注意が必要です。
まず、舌が上あごにあたる位置を確認しましょう。これはは、「च」のグループの時と同じです。舌打ちする時のあの場所です。でも、舌の形が違います。
「ट」の発音をするときは、「च」の発音のときと同じように舌が横幅一杯に広がって、両方の奥歯の付け根から前歯の付け根まで、上あご全体に密着します。
そして、肺から送り出されてきた空気が口から外に出ようとするのですが、「च」の時のように簡単には出してもらえません。一度舌全体にせき止められてしまいます。それでも、空気は舌を押し続けます。粘る舌は、深呼吸したときのお腹のように少し膨れます。ついに空気の圧力が勝って、舌と上あごの間に隙間ができて外へ押し出されてきます。そんなイメージで発音されます。それで、「こもった音」と表現されることがありますね。
この方法で発音された音に母音が加わると、「タ/ta」となります。
この口内の動きに、無気音、有気音、清音、濁音の組み合わせと鼻音を意識すれば、正しく発音できます。
このグループを発音する時には、日本語の「らりるれろ」も似たような舌の位置と形になるため、ネイティブの「ड(ダ/da)」と「ढ(ダハ/dha)」の発音は、日本人には間違って「ラ」と聞こえることが多いです。(逆に、カタカナで「ダ」と発音してしまうと、この次のグループの音と間違えられやすいために、「ラ」のイメージで発音した方が伝わりやすいという場合もあります。でも、正確な発音ではありませんので、頑張って習得しましょう。)
グループ「त,थ,द,ध,न」
このグループは、日本語の「タ(ta)」を発音する時と同じ位置に舌が来ます。そのまま素直に「タ」ですので、ほとんど特別な意識を働かせることなく発音できます。舌の位置は、上の前歯に舌が当たるか当たらないか、といったところでしょうか。
この口内の動きに、無気音、有気音、清音、濁音の組み合わせと鼻音を意識すれば、正しく発音できます。
唯一気をつけるべきなのは、母音記号 「ि」と「ी」、「ु」および「ू」が付く時だけです。日本語のタ行は「タチツテト」、ダ行は「ダヂヅデド」ですが、ネパール語の発音では、「タティトゥテト(ta,ti,tu,te,to/tha,thi,thu,the,tho)」「ダディドゥデド(da,di,du,de,do/dha,dhi,dhu,dhe,dho)」となります。口内の動きが全く同じで母音だけが入れ替わっているのだ、ということを考えると、こちらの方がむしろ自然ですよね。
グループ「प,फ,ब,भ,म」
このグループを発音するときには、発音ポイントはもっと前に移動します。もう舌は上あごにあたることはなく、唇が空気の流れをコントロールします。一度口を閉じてから開けられることで発音されます。日本語の「パピプペポ」や「マミムメモ」を意識していただければ分かりやすいですね。
この口の動きに、無気音、有気音、清音、濁音の組み合わせと鼻音を意識すれば、正しく発音できます。
覚えておくと良いのは、「फ」の音です。「ファ」と発音されるという誤解があります。確かに、ローマ字で「fa」と表記されることもありますし、日本人としては「ファ」と聞こえてしまいがちです。しかし、日本語で「ファ」という時、唇は一度完全に閉じられるでしょうか?そうではなく、半開きの状態から発音されるますね。これは、「फ」の発音ではありません。
「फ」を含むこのグループの文字はは飽くまでも、一度口が完全に閉じられてから発音されます。それで、当解説ページ内では、「パハ/pha」という翻字を採用していきたいと思います。
ここまでの部分は、「同じグループ内の文字は、同じ口の動き」ということを覚えておきましょう。
例外グループ「य,ल,र,व,ह」と「श,ष,स」
ここまでのものはすべて、パターンに当てはめることのできるものでした。でも、どんなものにも例外は存在するものです。
グループ「य,ल,र,व,ह」
この5文字は無気音・有気音、清音・濁音、鼻音の組み合わせではありません。それぞれ独自の発音です。
「य」は「ヤ/ya」ですが、どちらかと言えば「イェ」に少し近い音です。母音を当てはめていくと、「ヤイユイェヨ(ya,yi,yu,ye,yo)」となります。
「ल」は日本人に難しい発音です。英語に通じておられる方にはそうでもないでしょう。「ラ/la」の音です。Lとaの組み合わせです。「त」と同じ位置に舌先をとがらせてあて、離すことによって発音されます。この時、舌を巻いたり舌先を振動させたりすることはありません。
「र」は「ラ/ra」です。日本語の「ラ」はどちらかと言えばこちらに近いでしょう。外に出て行こうとする空気に逆らって、舌先を内側に巻き込んでみてください。舌先がブルブルッと震えれば、成功です。
「व」は「ワ/wa」でもあり、「ヴァ/va」でもあります。この使い分けは、現在では曖昧になっているため、単語ごとに覚えるしかありません。公文書などでは、一般的には「ब」が使用される単語のスペルに「व」が使われることが多々あります。
「ह」は「ハ/ha」ですが、これは有気音です。息がしっかりと出ていくということを意識しましょう。
グループ「श,ष,स」
これは3つとも「サ/sa」です。これに関してはshaと翻字されることもありますが、有気音であることを意味しているのではありません。そのまま「サ」として覚えましょう。「ष」だけは、一覧表の中に限って「kha」と読むと教えられることがあるそうですが、実際の発音は「サ」です。
音は同じですが、スペルでどの文字を使うかは一般的に決まっていますので、覚えましょう。
一つ指摘できるのは、外来語(英単語など)をネパール語に翻字する時には、「s」の箇所に「स」が当てられます。そして、どういうわけか、schoolやscreen,smileなど「s」が単語の頭に母音無しで付いて場合、母音の落ちた「स」は「イス」と発音されます。「イスクール」「イスクリーン」「イスマイル」といった具合です。興味深いですね。
結合文字「क्ष,त्र,ज्ञ」
最後に、「क्ष」「त्र」「ज्ञ」に触れておかなければなりません。これら3つだけはどういうわけか一つの文字として扱われて一覧表の中に登場するのですが、実は結合文字の一種です。
結合文字とは、二つの子音字がくっついて一つの文字のようにできあがっている文字のことですこれについての解説は今後書きたいと思いますので、このページでは、「क्ष」「त्र」「ज्ञ」の成り立ちのみご確認いただければと思います。
「क्ष」=「क」+「ष」 / k + sa = ksa「クシャ、チャ」
「त्र」=「त」+「र」/ t + ra = tra「トゥラ」
「ज्ञ」=「ज」+「ञ」/ j + nya=ngya(njya)「ンギャ」
一言。
ところで、ここまで一覧表を、じ~っと眺めてきて、気が付いたことはないでしょうか。
母音は「ア」で始まりましたよね?
子音字の一覧表は、「カ」ではじまります。
そして、「チャ」。次が、「タ」。。。
ア、カ、チャ、タ、タ、(ナ)、パ、(マ)、ヤ、ラ、ワ、ハ、サ。
ア、カ、サ、タ、ナ、ハ、マ、ヤ、ラ、ワ。
もちろん、完全に一致するわけではありませんが、興味深い類似ではありますね。
まとめ
それでは、子音文字の読み方のまとめです。
・子音文字には母音「अ」が隠れている
・有気音の発音は、大げさに思えるくらいがちょうどいい
・一覧表を見ながら、縦のグループと横のグループを意識しよう
・「横のグループを発音する時は口の動きが同じ!」が基本
・「ल」は「L」で「र」は「R」。違いを意識しよう
・結合文字を覚えよう
文字の習得は、ネパール語学習を始めていきなりやって来る大きな山場です。でも、文字を習得すれば一気に楽しくなってきます。諦めずに乗り越えましょう!
ネパール語でお困りですか?
ネパール語翻訳なら、
同)アジア・パブリック・インフォメーション!
ネパール在住10年以上の実力者が上質な翻訳を提供します。
まずは、下のボタンから詳細をご確認ください。
下のボタンは、弊社運営の別サイト「https://news-of-asia.net/category/writen-in-nepali」を開きます。